おもしろコラム 3月号
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「蜃気楼と言えば神秘的なイメージをお持ちの方も多いと思います。しかし現在では、そのメカニズムが完全とはいえないまでも、ずい分解明されてきています。蜃気楼とは、春の季語ですが、富山湾などでは、冬場の日中なら、ほぼ毎日見られるようです。これには、冬型の気圧配置が影響していて、大陸からの冷たく乾いた空気が、比較的暖く湿った日本海の上に重なるとき、その温度の差が空気の密度の差を生み、その境界層を太陽の光が通るときに屈折し、対岸の景色が下方に反転して見えるのです。空中に浮いているようにも見えるため、「浮島現象」と呼ばれます。意外に感じられるかもしれませんが、これは砂漠で見える蜃気楼や、アスファルトの逃げ水と同じ原理です。さて春の蜃気楼ですが、日本でこのタイプのものが見られる場所は非常に限られています。そのうち富山湾と琵琶湖では毎年観測されていますが、伊勢湾では今のところ毎年とはいかないとのこと。北海道ではオホーツク海沿岸の網走・紋別辺りでも見られるそうです。空気の温度差が原因で発生するのは同じですが、空気の温度の配置が逆で、上層が暖かく下層が冷たいときに発生するようです。このタイプのものは、対岸の風景が上方に伸びて見えるのが特徴です。さらに、画像が反転し、反転した上に反転像が重なるという、3像現象や5像現象といった、極めて珍しい景色を見られることもあります。このタイプは、富山では3月の半ばから7月の半ばにかけて、年に十数回しか見られないそうです。自然の中には、この「春の蜃気楼」やオーロラのように、見られるか見られないかわからない現象がいくつもあります。運試しをするつもりで、春の蜃気楼を求め、旅に出るのも一興ではないでしょうか?(くれぐれも脇見運転には気を付けて!)(文:気象予報士 チャーリー/絵:吉田たつちか)2006-03春の蜃気楼

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