おもしろコラム 3月号
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 直江兼続という人物がいます。謙信亡き後の上杉家の舵取りを任された人ですが、この人が50代の頃、自筆で3冊の小雑誌をまとめたそうです。 1冊めが「戦いに関する心得」を述べた「軍法」、2冊目が「漢文の文辞に関する物」を書き写した「文鑑」・・・と、ここまではさすがに文武に秀でた智将!と感心するのですが、なぜか3冊めは「秘伝集」という少々、怪しげなタイトル。 この中には、「その日大事が起こるときには自分の影が見えない」とか、「小便をして泡が立たないときは、その日大事があると考えよ。泡が立っていれば心配はない」とか、少々、「??」と思うようなことも書かれているそうです。 この辺りは現代でも、「政治家と大企業の社長は占いが好き」と言いますし、プロスポーツ選手などもジンクスを大切にすると言いますが、ましてや、当時は生命の危険と隣り合わせの日常・・・ですよ。 この本の後半には毒殺防止の為の心得などもあり、「毒のある膳」を前にすると、「持ってきた者は目に涙を浮べ、自分も涙目になって急に小便に行きたくなる」とか、「にわかに口が乾いて唇がひりひりする」・・・など、思わず、当時、主に毒として使われていた物がどういう成分だったか想像がつくでしょうが、そう考えれば、我々、現代日本人が噛み締めるべきものは、普通に外食に行って、出てきた物を何の疑いもなく食べられる社会というものの有り難さ・・・なのかもしれませんね。 同書にはさらに、「口の中に脈がある。それと手の脈を取り合ってみよ。二つの脈が同時に打てば、どんな難儀があっても身に危険が及ぶことはない。これから合戦というときにも、このことによって生死を知るべきである。脈が同時に打ったならば、心を強くもって高名をあげよ。またそうでなければ用心して、きちんと慎むように。もしどちらかわからないときには、思いきって、討死にしようと思い定めて進め。意外にうまくいって高名をあげることもあるものだ」と。 口の中の脈・・・というのは私にはよくわかりませんが、これなどもあるいは消防士さんやレスキュー隊の人たちなどにはわかるのかもしれません。要は、戦いを前にして平常心でいろ、狼狽えてるとかえって危ない・・・ということだと思いますが、興味深いのは人によって違うのではなく、同じ人でも、その時その時で、平常心でいたり、ビビったりしていたってことですね。 (小説家 池田平太郎/絵:そねたあゆみ)普通に出てきた物が食べられる社会

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