おもしろコラム 3月号
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春の夜、小さくぼんやりと光の雲のように輝く星雲があります。中国では「死体から立ち上る妖気」とも呼ばれるような不思議な夜空の白い星雲。これを中央に置いた星座がお誕生日の星座にもなっているかに座です。このかにはギリシア神話では、有名なヘラクレスと関わりがあると伝えられています。ヘラクレスは浮気者の大神ゼウスと、人間の女性アルクメネのあいだにできた、生まれつき怪力を持った男性です。ゼウスの妻ヘラは嫉妬深くて有名な女神です。ヘラはもちろんヘラクレスにもいやがらせをしました。そのうちの一つでヘラクレスは、アルゴスという国を荒らしているヒュドラという怪物の退治を命じられました。ヒュドラというのは九つの頭を持ち、真ん中の一つが不死の頭と言われています。それ以外の頭は、いくら殺しても次々とすぐに生き返ってくるのです。ヘラクレスはヒュドラが住んでいると言われている枯れた井戸の底深くに潜り込みました。いざ、ヘラクレスがヒュドラに襲いかかろうとすると、ヒュドラと親しくしていた体の大きなかにが、ヒュドラをヘラクレスから守るために姿を現しました。このかにはただ大きなだけで、ヒュドラのように特別な生命力を持っているわけではありません。しかし友人のために命をなげうってヘラクレスの前に立ちはだかったのです。しかしヘラクレスの強さは圧倒的で、かにになすすべはありません。戦いとも呼べないうちにかには命を落としてしまいました。それを天から見ていた女神ヘラはこのかにを哀れに思い星座の列につらねたということです。また一説では、このかには、そもそもヘラクレスの邪魔をするために女神ヘラが差し向けたのだとも言われています。そしてこのヒュドラは、全天で一番大きな星座うみへび座として空に輝いています。(ヘラクレスが星座になったヘルクレス座は五番目に大きな星座です)(文:気象予報士・小説家 チャーリー/絵:吉田たつちか)2010-03巨大かにと怪物へびの友情
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