おもしろコラム 3月号
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おおぐま座は、日本では「北斗七星」というひしゃくに見立てられた星の集まりを持つ星座で、一年中夜空で見ることができます。しかし春から夏にかけてのこの時期は、陽が沈んだばかりの空に浮かび、一年で一番見やすい位置に姿を現わします。北斗七星は北極星を探す目印として、日本以外の国でもスプーンに見立てられたりして、主に航海をする人たちにとって貴重な星座にされてきました。 おおぐま座にはギリシア神話にまつわる物語もあるのですが、今回はアメリカのインディアンのあいだで伝えられているお話を紹介します。 昔、森にある木々は、夜になると地を歩き回り、めいめいにおしゃべりをしていました。ある森の近くに、1匹の大きな熊が住んでいました。ある月明りのない暗い夜、その熊は、自分が住みかにしている洞窟に入ろうとしたつもりが、あまりに暗かったために誤って森の奥へ奥へと入り、道に迷ってしまいました。その森は果てしなく広く、太陽が頭の上から照りつける昼間でさえ、木の葉が光を遮って、明るくなることはありません。熊は困り果て、あてどなく森を奥へと進んで行ったのです。すると、ちょうどそのときは真夜中だったのです。そう、木々たちのおしゃべりの時間! 熊は初めは空耳かなと思いました。しかし歩みを進めると、なおも話し声のようなものが聞えます。熊は立ち止まり、2本の後ろ脚で立ち上がり、周囲をぐるりと見遣りました。熊は、木々がそれぞれに、まるで1本脚で動く生きもののようにあちこちへと移動をし……熊の耳に届いたあの声は、明らかに木々が立ち話をしていたものだとわかったのです。木々が夜中にそんなことをしているなどとは夢にも思っていなかった熊は、驚き、慌て、迷いに迷った迷路のような森の中を、どこへ向かうともなく駆け巡りました。走り回る熊は、何本かの木と何度もぶつかりました。 そんな混乱した熊を、じっと見ている冷たいまなざしがありました。大きな樫の木です。それはこの森の大王だったのです。樫の木は熊に近づいて行きます。熊はそんなことに気づく余裕もなく、ただ駆け回ります。樫の木はその長い枝で、熊のしっぽを上からひょいとつまみ上げました。熊があまりに暴れるので腹を立てた樫の木は、熊を空へと放り投げました。そうして熊は天に昇り、普通より長い尾を持つおおぐま座となったのだそうです。(コラムニスト 気象予報士 チャーリー)/絵:そねたあゆみ 2017-03 3月の星座 おおぐま座

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